くろやんの日記

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映画『人生フルーツ』を観て。これはスローライフ万歳映画ではない。合理主義に対する強烈なメッセージだった。

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life-is-fruity.com

『万引き家族』、『日日是好日』と樹木希林さんが携わる作品にハマっている最近です。
この流れで樹木希林さんがナレーションをされている『人生フルーツ』という映画を観てきました。

 

風が吹けば、枯れ葉が落ちる。
枯れ葉が落ちれば、土が肥える。
土が肥えれば、果実が実る。
こつこつ、ゆっくり。人生、フルーツ。
ー映画『人生フルーツ』より

 

『人生フルーツ』は元日本住宅公団のエース、修一さんとその奥さんである英子さんの名古屋近郊の高蔵寺ニュータウンの片隅での暮らしを追って行く、ドキュメンタリー映画です。
予告編やフライヤーを見る限り、
・暮らし丁寧系
・スローライフ万歳
という系統の映画かなあ、と想像していました。実際レビューもそんな感じだったので。
そして実際そういう場面が殆どでした。


建築家の修一さんがデザインした平屋の戸建てはオシャレだし、70種の野菜と50種の果実で彩られる生活はとてもカラフルだし。それらから作る手作りのおやつやごはんを観ていると、こんな一軒家カフェがあったら遊びに行きたいなあ、と思います。
ぼんやり観ていると、ただただ幸せな気持ちになるし、これまで観て来たスローライフ系映画の中でも群を抜いてスローライフが素晴らしく見える映画でした。

 


けれども、そうじゃない。と感じたのは、修一さんがこの家を作ったきっかけのお話から。
1960年代、元々の山の形が分かるような、風の通り道を残したニュータウンを計画した修一さん。
けれども経済優先の時代でそれは叶わず、完成したのは今私達がよくみる、四角い箱がたくさん立ち並ぶ団地。

「家は、暮らしの宝石箱でなくてはいけない」
ーモダニズムの巨匠ル・コルビュジエ

修一さんは団地は暮らしの宝石箱になったのか、疑念を抱いていたのでしょう。
実際、東京のアパートの一室、団地の一室はラット小屋と揶揄されることがあります。
経済優先で合理性だけを追求した先に生まれた物は、私達を幸せにしてくれるのか、その答え合わせを私達はちょうど今、している気がします。


本当に団地やアパートの一室での暮らしが多くの人にとって幸せであったなら、「夢の一戸建て」という言葉は生まれたでしょうか。
年を取ってからの「田舎暮らし」という言葉はこれほど流行ったでしょうか。


これがアジアだと言われてしまえばそうかもしれません。とにかく、合理性を追求した場所がこの広い地球のどこかにちょっとくらいあってもいいかもしれません。
けれども、町を尋ねた時、同じような団地しか立ち並んでいない町はなんとなくつまらないと感じてしまいます。
その町の香りを感じに尋ねてみたのに、あるのは同じような四角い箱ばかり、それがその場所だけならまだしも、日本全国にちらばって存在していると思うと、面白いとは思っても自分が住みたいとは思えません。
同じ理由で、画一的なホテルもちょっと苦手です。
ビジネスホテルは利用しますが、温泉地に行くと大抵似たような四角い箱のふるびたビルがポツポツ建っています。
きっとその時代、たくさんの人が訪れるのに対応するべく、たくさんの人が収容できる建物を造ったんだと思います。
これも合理性の追求ですね。
けれども、私は別に誰かに命じられてそこを機械的に訪れるのでない限り、木造だったり、画一的ではない建物に泊まってみたい、と思っています。

 

資本主義を追求する為に、合理主義に走った日本。今少しずつそうではない方向に舵切りをしているように思います。
昔程、田舎で農作物を作っている人が都会の人に馬鹿にされることもなくなったような気がします。
災害によってインフラが止まり、人間の暮らしに必要不可欠な要素である「食」は、作っている人や穫っている人がいる、ということが一時的に表面化したことも影響しているかもしれませんね。


しかし、かつてどの国よりも合理的に突っ走ったが故に、残った建築物の無機質な感じは今後10数年はまだまだ残りそうです。修一さんは、過去にそういった物を自分が作ったことへの贖罪とまで言ってはおこがましいですが、それに似たメッセージを、自らの暮らしを以て表現しているように私は感じました。

 

私はスローライフ映画は好きですが、スローライフ万歳とは思っていません。
熊や猿が日常的に現れるど田舎育ちなので、あんな映画のようなスローライフはフィクションだと思うし、修一さん夫妻の暮らしも、宝くじに当たったレベルの成功確立なんじゃないかと思う節もあります。
というか、田舎でスローライフってほぼ無理だろうな。
都心の郊外でスローライフはできるだろうけど、山が近いリアル田舎じゃほとんどサバイバルになるもんね(笑)
けれども、同じように超合理的な生活を永久に続けられるのも1つの才能、運だと思っています。
私は上京したばかりの時、いわゆるラット小屋に住みましたが、「ずっと」そこだったら多分病みます(笑)


でも、都会が嫌いな訳じゃない。むしろ超便利。好き。
じゃあ、どうやって暮らすか?

普通のスローライフ映画だと、
「ああーあの暮らしいいなー」「素敵だなー」
くらいで終わるのですが、
修一さん達の圧倒的に突き抜けた生活スタイルは強烈故に、
「暮らしとは何か」「生きるとはどういうことか」
と、自分の生活スタイル、人生への向き合い方を改めて考えさせられました。

時をおいてまた見直したいのですが、なかなかDVDにはならないようです。
Amazonとかでレンタルだけでもできるようにならないかな。
公開されている劇場も非常に少ないので、せめて配信orDVD化してくれますように。

おやすみなさい。