6月30日から渋谷、イメージ・フォーラムで公開となった映画『ワンダーランド北朝鮮』を鑑賞してきました。
NHKBSを始め、朝の民放でもチラホラ取り上げられていたので、お客さんもそこそこかと思いきや、我ら夫婦、上品そうな老紳士、マイナー映画をよくチェックしてそうな下北沢住みっぽいオシャレ青年、ギターやってる女子大学生の五人。
スーツの夫なんて、完全に映画館の雰囲気とは違う人でした(笑)
映画好きな一部の人しか観ない奴?なんて不安は観賞後には吹き飛びました。
お近くで上映している環境にいる方は是非見に行ってみて欲しいです。
冒頭ドイツ語の説明ですが監督はドイツ人……ではなく。韓国出身、映画撮影の為にドイツ国籍を取得したチョ・ソンヒョン氏。
資本主義側の国のプロパガンダでもなく、北朝鮮が国としてアピールしているプロパガンダでもなく、”自分の目で見た北朝鮮の日常”をストレートに貫くドキュメンタリー映画でした。
▼監督チョ・ソンヒョン氏について。なぜ彼女は北朝鮮の映画を撮ろうと考えたのか
▼映画『ワンダーランド北朝鮮』あらすじ
▼感想1.問題が現在進行形だからこそ、今観る価値のある映画
▼感想2.観終わった後、一番に思ったこと「これでお互いおあいこだな」
▼感想3.観終わった後、二番目に思ったこと「日本海ってあんなにきれいだったんだ」
▼感想4.”いいものしか見せない”という北朝鮮の国としての姿勢
▼感想5.私は今後、どう向き合っていきたいと考えたか
▼監督チョ・ソンヒョン氏について。なぜ彼女は北朝鮮の映画を撮ろうと考えたのか
韓国の全羅南道の釜山に生まれたチョ・ソンヒョン氏は、北朝鮮の真実の姿を知りたいと北朝鮮で映画製作を行うため韓国籍を放棄。ドイツのパスポートを得て飛行機で北朝鮮に向かい、映画を撮影しました。
彼女が映画製作にあたって強く考えていたことの一つが、”北朝鮮の日常を生きる"普通"の人々の姿を届けたい!”という思い、とのこと。
チョ・ソンヒョン氏がどこまでどう考えていたのか、インタビューから全てを読み解くのは難しいですが、資本主義という社会の中で、資本主義が見せる社会主義(北朝鮮)だけを受け入れること、に対する違和感、そこから「北朝鮮って本当はどんな国?」という疑問が生まれたのかなあと思います。
▼映画『ワンダーランド北朝鮮』あらすじ
映画は、初めて訪れる北朝鮮にて、監督自身は同胞として迎えられるのか、それとも敵国として迎えられるか、飛行機の中で不安をつのらせるシーンから始まります。
しかしいざ到着してみると、軍人さん、エンジニア、画家、サッカー学校の寄宿舎に住む少年たちと先生方、農家夫婦、工場労働者、みんなから同胞として歓迎を受けます。
政府からプレゼントされたのか、国内観光旅行を楽しむ軍服を来た人達。美しく、土曜日は外国人も楽しめるという大型レジャー施設。
美しいもの、将軍様への純粋な忠誠心、一瞬北朝鮮のプロパガンダと捉えてしまいそうになる映像も、よく周囲の風景、人々の表情を見ていると、隠された何かがあることを私達に教えてくれます。
▼感想1.問題が現在進行形だからこそ、今観る価値のある映画
私はソ連という国を、紙の上、映像の中でしか知りません。リアルな冷戦のときの世の中の様子、というのは何をどうあがいても見聞という形でしか感じることはできないのです。
北朝鮮と韓国の統一問題は現在にも進行中の問題です。トランプ大統領と金正恩総書記がシンガポールで会談をするとなったときは、いよいよ終結か!?と思われましたが、実際課題が進捗するような約束や取り決めはほぼないような感じに終わってしまった為、統一問題解決はまだ先になりそうです。
そんな、北朝鮮の現体制をリアルタイムで聞いている、日本人として日本に住んでいる私が感じること。というのは、北朝鮮が現体制を続けている時にしか感じられないことです。
やべえ国だな。でも歴史を調べてみると、アメリカの攻撃の仕方もえぐいな。日本だって、このときの戦争の特需で復興したんだもんな。正直他人事じゃないな。
でも経済制裁を受けて、超絶苦しいのにどうして国は続いていられるんだろう。ワンピースのアラバスタ王に言わせれば、国は民である。なのに。フランスで起きたような革命も起きない。
これが私が観る前に考えたり、感じていた北朝鮮に関することです。
観た後は色々な思考がぐるぐる巡り、上記に書いたような単純な感情ではなくなりました。そしてこれから私達がこの問題に対して、どう向き合っていくべきか、ということをとてもよく考えさせられました。
▼感想2.観終わった後、一番に思ったこと「これでお互いおあいこだな」
私が普段、北朝鮮に対して知っていることと言えば、
核兵器の開発をしている、なんかすごいハッカー集団がいて世界に攻撃をしかけているらしい、ミサイルを実験で日本海に飛ばしてる、経済制裁を受けている、船で流れ着いて日本に来た船が青森とかに来てる、日本海で最近イカを国際的には違法な漁法で取ってるらしい、
ということくらい。
イカは最近ニュースでやってたばっかりだったので、みんな食べ物無くて大変な状況なのかな、と、簡単な素材でできた家と人々という想像が膨らみます。
また、いつも軍人さんが歩いているような映像しか観ていないため、彼らが何を楽しみに生きている、とかそういうことも一切知りません。
このドキュメンタリー映画では、彼らの娯楽や楽しげな生活がこれでもか、というくらい写っていました。(写っていた人達全員が楽しそうな表情というわけではない)
映画撮影が決まったとき、検閲は免れないことも含めての了承とのことだったので、北朝鮮は、北朝鮮の見せたい部分だけを切り取って取材を許可していたからでしょう。
監督自身も”映画は対話”という持論から、”隠し撮りをしない”という姿勢で映画を撮影したようです。
が、監督自身が資本主義側の目線を持っているためか、映像の中心は美しくてもその周りに綻びが見えるすごい作品だったけど。
なので表面だけ観ていると、北朝鮮の、社会主義のプロパガンダのように見えてしまいます。
けれども私達だっていつも資本主義側のプロパガンダを観ている訳なので、これでようやく”おあいこ”なんじゃないかな、と感じたのです。
▼感想3.観終わった後、二番目に思ったこと「日本海ってあんなにきれいだったんだ」
東側の街、そして工場で働く女性たちを撮影し、その後そこで働く一人の女性工と監督は浜辺を歩きながら語らいます。
白い砂浜、青い海。その浜辺の美しさと言ったら……沖縄レベルに見えました。でも東側ってことは、それこそ秋田、新潟とかがある日本海。日本海ってあんなに美しかったの? 昔は日本の海もあんなに澄んでいたの?
日本海だけではありません、トウモロコシ畑が延々と広がる様子は北海道さながら。地平線の先に沈む太陽を見つめる農夫たちの豊かな表情。川沿いに咲く黄色やピンクの色とりどりの花。作られた訳ではない、天然の花畑の不揃いの美しさ。
朝鮮半島の統一問題が解決されたら、私は絶対観光に行きたいな、と思いました。
▼感想4.”いいものしか見せない”という北朝鮮の国としての姿勢
あらすじにも書きましたが、映画は基本的にとても美しいです。ただ、監督の目の付け所と編集という技によって、非常に美しいのにどこか虚しい、という映画としてもとても芸術的な仕上がりとなっています。
ー冒頭、軍人さんたちが慰安旅行?なのか観光地で写真を撮っているシーン
監督も混ざって一緒に、楽しそうに写真を取り合うシーン。私はこのシーンで涙が出てきてしまいました。
美しさを感じると同時に、彼らも同じ人間で、私達と同じように楽しいときは楽しいし、嬉しいときは嬉しい、という当たり前のはずのことをどこかで忘れていた自分を思い出したのかもしれません。
カメラのメーカーがどこなのか、よく目を凝らしましたが観ることはできず。ただ、一眼もデジカメもみんな持ってました。
ー軍に仕えている家族が住む高級マンション
軍で良い仕事をしている故、将軍様が無料でくださった、と将軍様への感謝を述べるおばあちゃん。冒頭と最後にこの家族が登場します。キッチンはかなりキレイで、調理器具も充実しています。冷蔵庫等の家電は最新式な感じはしませんでした。
軍人さんの家ということか、登場した様々な職種の家の中で一番おかずの量が多かったです。(他の家庭の様子も、基本的には綺麗な家が登場しています)
ただ、最後のおばあちゃんと孫が一緒にインタビューを受けている映像は圧巻でした。
あの国で最上クラスに属しているだろう暮らしをしているおばあちゃんは、将軍様への感謝の念でいっぱいです。どれもこれも将軍様のおかげ。自らの命を犠牲にして国益を守った軍人の逸話を誇らしげに語り、自分の子供や孫にもそういう生き方をして欲しい、いざというときは国の為に命を捧げて欲しい、それが本望。といった口ぶりで、目もキラキラと輝いていました。
一方インタビューにそう答えるおばあちゃんの横で、孫はずっと、物言いたげに床の絨毯を指でいじっていました。その表情はほとんど無表情で、おばあちゃんと同じ思想を持っているとは到底思えませんでした。
各シーンで”美しさの虚構”は垣間見えていたのですが、これがもっとも決定的な場面だったと思います。
北朝鮮は確かに”美しさ”しか見せてくれませんでした。けれども北朝鮮が見せようとしてみせた”美しさ”によって、(そして監督の徹底した”対話”によって)こうした”虚構”、”ほころび”を露にしたようにも見えてきます。
▼感想5.私は今後、どう向き合っていきたいと考えたか
タイトルにも書きましたが、改めて「私達が最もよく知らない隣人」なんだなと思うと同時に、何がお互いにとって幸せなのか、という視点の問題解決思考が自分には足りていなかったのかもしれない、とも感じました。
国の問題はその国自身ができるかぎり自力で頑張るのが筋
と頭では分かっていても、どこかアメリカンというか、日本という先進国に住んでいる驕りからか、あんな寂しい、ひもじい生活をしている人達がたくさんいるなんて、そんな世界があるなんて、指導者は何をしているんだ!
(そうだ自分たちが助けてやろう、介入してやろう)
という思考が全くなかったかと言われれば、ちょっと自信がないです。
当事者じゃない人がヘタに介入すると、こじれる確率の方が高い、というのは幼い頃からのケンカの経験でよく分かっているはずなのに、国同士となるとこの経験を無視して思考してしまいがちです。
それに冷静に考えたら、どの国でだって、どんな先進国でだって、指導者は常にこの指導者は何をしているんだ!と思われているのにね(苦笑)
私が考えるべきは、一旦自分が住んでいる日本という場所で、危機が訪れないようにするにはどう行動すべきか。相手国をどうこうしてやりたいって視点ではなく、自国はどうする?って考えて行動すること。
そしてその次が、世界という規模で、危機が訪れないようにするにはどう行動すべきかも考えてみること。自国はどうする? で出した結論や、こう行動すべきって思ったことを、じゃあ世界で考えたらそれで得する側損する側はどうなる? バランスは?っていう視点でも考えてみること。
考える為にも、やっぱりこうしてどんな情報にでも触れて、まずは相手を知ること。
だって私達にとって北朝鮮って、日本海を挟んだすぐ向こう側なのに、やっぱりまだ”私達が最もよく知らない隣人”なんですもの。
最後に、映画監督の原一男さんは、映画についてこのような感想を残されています。
「観る者の映像を読み解く能力が試されている」
あなたはチェ・ソンヒョン監督のドキュメンタリー映画『ワンダーランド北朝鮮』から、何が見えるのでしょうか。
きっと私とは違う感想も持つと思います。でも、そうやって多くの人が観て、感想が集まることで、私達はまた、”よく知らない隣人”についての知見を深めていくことができるんだと思います。
映画『ワンダーランド北朝鮮』は、2018年6月30日(土)から、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー。
映画『ワンダーランド北朝鮮』 | 北朝鮮の”普通”の暮らしとその人々。これはプロパガンダか?それとも現実か?