夜は懐中電灯なしでは歩けない、そんな実家に帰ってきて、町のねずみと田舎のねずみという話について、思い出した。
読んだのは小学生くらいの頃だったと思う。
クラスで読んだ記憶があるから、何かの授業かもしくはちょっと空いた時間に先生が読んでくれたのかもしれない。
何もない田舎暮らしだから、全員の視点は当然のように田舎のねずみだった。
クラスには町に住んだことがあるような子はいなかったから、ただただ、都会ってなんだか怖い、と思った記憶がある。
実際物語も、田舎のネズミの視点が中心に、最後の締めくくりも田舎のネズミでおわる。
本当は、友達の中にやっぱりそれでも都会に住みたい、と考える子もいて、色々討論になりそうな物語なような気がするが、地元が本当に田舎過ぎたせいか、都会に行きたい、と力強く主張する子はいなかったと思う。クラスでどっちがいいか、という討論は起きなかった。
こんな話も忘れ、思春期になったころからは、都会に行きたい子もチラホラでてきたのかもしれない。
高校を卒業して大学進学を機にぽつぽつと都会に出る子がいて、就職をする頃にはもっと増えた。
もちろん一度も出ない子もいる。そういう子は大抵、都会に対して過大すぎるほどの恐怖を抱いている。
そんな私も、就職で都会に出た口で、夏休みになると決まって実家に帰省して、地元の友達に会うのである。
しかし、町のネズミと田舎のネズミを読んでいた当初は、やっぱり都会は怖いなと思っていた。何も疑うことなく、みんなと一緒に怖がっていた。
実際怖いなと思う部分もある。電車のラッシュも苦しいし、夜、大声を出す酔っぱらいにびびったこともある。いい人もたくさんいるけど、怖い人もたくさんいる。人はたくさんいるから、人を意識しないで暮らすってことができない。
都会なんて、近所付き合いないでしょ、と言われることはあるけど、田舎に暮らしていたときほど適当な格好で町を歩くことはできない。やっぱり、たくさんの人の目が気になってしまう。人を意識してしまうのだ。
でも、やっぱり普通に人が暮らしている場所であることも事実だ。お惣菜屋さんがたくさんあって、仕事で疲れて帰ってきても、買って帰ればすぐに食べられるし。
映画や劇、美術館等の娯楽も豊富で、テレビやネットを通さなくても本物の芸術を生で見ることができる。
外食する場所もたくさんあって、カレー好きな私は休日になると、調べたおいしいカレー屋さんを訪ねることもある。大体電車で行けるから便利だ。
都会は全部が怖いだけでなく、慣れれば楽しい部分が多い。
都会暮らしはそれなりに楽しいけれど、大人になった今、町のねずみと田舎のねずみを読み返して、私はやっぱり田舎のねずみだったのかと思う。
水や空気がきれいな方が気持ちがいいし、実は本当においしい素材は、採れたところで消費尽くされ、都会に回ってこないので、地元のちょっとした名物は地元でしかやっぱり食べられないのだ。私はたまにこの名物が恋しくなる。
でも、その良さはやっぱり町に出たから分かったのだ。
町のネズミも、田舎のネズミも、えらいなと思うのは実際にちゃんとそれぞれの場所に行ってみて、自分でしっかり実感してきて決断を出している。
この話は、君はどっちがいいか、の話をする物語じゃなくて、実際に行ってみて自分で決めろよってことで、幸せは人それぞれっていう物語だったようだ。
そんなところまで考えてすっきりしたんだけれども、一つだけ誰かに聞いてみたいことがある。
この話を読んだ都会の人は、幼いときどんなことを思ったんだろうかということ。